サイクルステーションを出発し、交通量の多いエコーラインを横切ると、道はそば畑と水田の中をまっすぐに下っていきます。ここから自転車が進む方向の景色を見てみましょう。
坂の右手の谷間は諏訪盆地。一番奥にある諏訪湖は手前の山に隠れてギリギリ見えませんが、その奥には北アルプスが遠望できます。左から乗鞍、穂高、槍、常念(すべて百名山)と続いています。坂の正面に目を戻すと、谷の向こうには南アルプスの山々が連なります。
坂を左折すると圃場整備された棚田の中を平らな道がまっすぐに伸びています。目指す方向に見える三角形の岩山は甲斐駒ヶ岳(百名山)、その右側のたくさんのピークは鋸岳です。ちなみにルート上からは、左後方に蓼科山、左手に八ヶ岳、右前方に富士山の各百名山も見えますので、山を同定しながら走るのも楽しいでしょう。
そして、諏訪湖から富士山が見通せるこの大きな谷間は、日本列島を形作る巨大な溝、「フォッサマグナ」の西境、「糸魚川静岡構造線」という大断層なのです。「大きな溝」を意味するフォッサマグナは、ここから関東の北まで続いていますが、北の端にはこうした明瞭な境界は確認されていません。そしてその溝の深さは6000m以上と言われますが、まだ底は確認できていないそうです。私たちがいる原村は、そんな巨大な溝に堆積した土を突きぬけ、八ヶ岳火山が噴火した場所なのです。つまり、目の前の谷を挟んだ南アルプスとは、地質的には全く成り立ちが異なっているのです。
この糸魚川静岡構造線ですが、諏訪湖でもう一つの巨大断層、「中央構造線」を横切っています。「中央構造線」は、天気予報でみる日本列島の絵でも、天竜川に沿った谷が西に曲がって、紀伊半島、四国を横切り、九州まで続いているのがわかる明瞭な断層です。こちらは日本列島がまだユーラシア大陸の沿岸にあったころ、太平洋を西に進んできたプレートが大陸に沈み込む際、地上に残した堆積物との境目なのだそうです。諏訪湖が四角い形をしているのは、フォッサマグナに沈み込んだ中央構造線を糸魚川構造線が引き裂くようにして広がって作ったからと言われています。
大地を動かすすさまじいパワーですが、その源はなんでしょうか? 地表の岩や土を載せた地殻プレートは地球規模でみると卵の殻のように薄いものですが、その下の卵白に当たる高温のマントルが何万年もかけて対流しているためと言われています。私たちの足元では、今でもフィリピン海プレートと太平洋プレートがユーラシアプレートを押し続け、南アルプスは爪が伸びるくらいのスピードで隆起を続けているそうです。
ここから見える景色は、日本列島を形作った巨大な力がはっきりと現れて見える、世界でも特別なものと言って良いかもしれません。
E-CHARI ガイド
新美 高志(チャラ美)/激坂好きサイクリスト
自転車にハマり、坂道を激走することに魅せられた御柱祭りをこよなく愛する。ガイドとして、皆さまに「歓び」と「嬉しみ」と「楽しさ」を伝えていけるプロのガイドになれるよう常に挑戦し続けたい。